ああ、哀愁の蘇州北駅 [自言自語]
春と呼ぶにはまだ早い雨の日曜日。
久しぶりに会ったTさんと日本料理屋で刺し身を肴に“真澄”を一升空けたその翌日。
冷たい雨に晒されたコンクリートの橋脚。
色彩の失せた風景をα7ⅡとMacro-Switar 50mm F1.8 AR で。
光のある場所では暖かな発色をするMacro-Switar でありますが、
こんな天気の日には無機質なコンクリートを相応の質感で写します。
人の気配も疎らな高速鉄道の駅前。
ロータリーの向かい、建築中のビルの上半分が霞んでいる。
窓口に並んで買った切符に印刷された時刻までにはまだ1時間以上ある。
コーヒーを飲んで身体を温めたかったが、自動販売機はおろか売店さえ無い。
このまま安全検査を通過して構内に入ろうかと思ったが、その前に煙草が吸いたい。
屋根のあるバス停で雨をしのぎながら火をつけた。
黒い鞄を肩に掛け、黒い服を着た無精髭の中年男が近寄ってきた。
控えめに差し出したゲンコツの親指の上下させ「借我一下」と火を借りに。
你找到工作吗?(アンタ仕事見つかったかい?)
独り言のように男が呟く。
我吗? 我有工作啊。(オレかい? オレは仕事あるよ。)
那就好了,那就好了。(それならよかった、それならよかった。)
相変わらず右肩上がりな経済指標の真偽はともかく、職探しは難しいらしい。
男はヨレた煙草をスパスパ吹かしながら目を細めて霧の向うを見つめていた。
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